近年、社会問題となっている「ハラスメント」。「パワハラ」や「モラハラ」「セクハラ」など様々な種類があります。
その中でもにおいの問題は「スメハラ(スメルハラスメント)」と呼ばれ、デリケートな問題であるため指摘や対応が大変難しいものです。
スメハラ問題に会社としても適切に対処するために、「スメハラとは何か」から考えてみましょう。
スメハラとは?
スメハラとは、スメルハラスメント(smell harassment)の略です。
「smell:臭い、香り」+「harassment:嫌がらせ、迷惑」のとおり、一般的には「臭いで周囲の人に不快な思いを与える嫌がらせ」とされています。
これまでずっと、臭いに関しては個人の問題とされてきました。
しかしこれだけ職場のハラスメントが社会問題となり、対策や改善が叫ばれる昨今では、会社として取り組む必要があります。
放置すると様々なデメリットがある上、さらに大きい問題に発展することもある、無視できない問題です。
服装や言葉遣いと同様に、「におい」も社会人としての身だしなみやマナーとして、誰もが気をつける必要があります。
なお、女性は男性より嗅覚が鋭い人が多いため、女性からの訴えが多い問題です。
スメハラの種類
スメハラとなる臭いは主に以下のものがあります。
・体の臭い(ワキガ臭、ミドル脂臭、汗臭、ストレス臭、疲労臭、ダイエット臭、頭の臭い、足の臭い、口臭)
・タバコの臭い(衣類や髪に臭いがつくため、その場所で喫煙していなくても臭います)
・香水、柔軟剤の臭い(本人はいい香りだと思っていても、他の人には迷惑となるケース)
※スメハラと香害との違い
「香害」もスメハラの一種ですが、主に香水や柔軟剤などの人工的な香料が原因の場合に使われます。
発生源は女性が多く、本人は良い香りだと思っていても、他の人にとっては不快で、頭痛やめまい、吐き気などの「化学物質過敏症」などの健康被害を引き起こすこともあります。
ちなみに、化粧品による迷惑のことは「コスメティックバイオレンス」といい、この中には香害も含まれます。
スメハラを放置するとどんなデメリットがあるの?
スメハラは様々な問題を引き起こします。放置すると問題はどんどん大きくなります。
・体調を崩す・健康を害する人がいる
・チームワーク、人間関係の悪化
・やる気、集中力や作業効率の低下(周囲に体臭の強い人がいると仕事効率が落ちるというデータもある)
・我慢することでストレスがたまる
・臭いを我慢できず退社する人もいる(退職の理由として明言できないけど、原因のひとつである)
・店舗であれば客足が離れ購買意欲の低下
・臭いを発している人に対して、無視したり陰口を言うなどのいじめやモラハラが発生することもある(被害者が加害者になり連鎖する)
このように、スメハラは、社員の働きを妨げる要因となり、会社としても業績悪化に響くほどの大きなリスクです。放置せず、早めの適切な対応が必要です。
なぜスメハラは対応が難しいの?
スメハラは会社の重大なリスクとなりますが、その対応が難しいため、これまでずっと個人の問題であるとされてきました。どういった点が対応しにくいのか、適切な対応を考えるため整理してみましょう。
においについての明確な定義、基準がない
臭いに対して、非常に敏感な人もいれば何とも思わない人もいます。また、ある人にとっては良いにおいでも、別の人は不快と感じることもあります。
不快だと感じる基準は人によって異なります。
厚生労働省のガイドラインがあるパワハラやセクハラと異なり、スメハラには明確な基準や該当する範囲が定められていません。
このため、指摘しにくく、法律問題にするのも難しいのが現状です。
デリケートな問題のため指摘しにくい
ニオイの問題はとてもデリケートです。
指摘によって相手を傷つけたり、人間関係が悪化することをおそれ、誰にも言い出せずに我慢していることも多いものです。
相手が誰であっても言いにくいですが、特に相手が目上の人や上司の場合は「評価に影響するのでは」という心配があるため、より指摘する事が難しいものです。
「タバコ」「ニンニク」など原因がはっきりしたモノであればまだ少しは言いやすいかもしれません。(それでもかなり勇気がいるでしょう)
しかし、体臭であればさらに指摘しづらく、中でもワキガは体質に由来するだけに最も言いにくいですよね。
臭いを発する本人に悪意や自覚がない
誰でも自分の臭いには気づきにくいため、本人には自覚がありません。また悪意もありません。
わざとやっているのではないだけに余計に、指摘して改善を求めることが難しいと感じられます。
伝え方を誤ると名誉毀損やモラハラになる
「くさい」という指摘は、言われた方は人格を否定された気分になってしまうほどダメージが大きいものです。
体質の問題もあるため、言い方によっては身体のコンプレックスを煽り精神的な苦痛を与える場合もあります。
また、他の人がいる前で指摘することで、名誉を傷つけたり、具体的な対策を伝えずに一方的に体臭の改善を求めることは強制的な要求としてパワハラやモラハラと見なされることも。
また、本人に自覚が無いため、ただの言いがかりや嫌がらせとして受け取られる場合もあります。
つまり、伝え方を誤ると、人権侵害や名誉毀損、パワハラやモラハラ(相手が女性であればセクハラになることも)などの問題となり、場合によっては訴訟問題にまで発展する可能性があるのです。
その他
他にも、「自分も臭かったらどうしよう、人のコトを言えないかも」「こんなことを指摘すると神経質なクレーマーだと思われるのでは・・・」など、様々な思いから、言い出せない場合もあります。
以上が、スメハラ対策が難しい理由です。ですが逆に、これらをひとつひとつ考えてゆくことで、適切な対応が可能になるのではないでしょうか。
会社として、スメハラ問題への取り組み方については次回からの記事にてご紹介します。
※悪意がないのに「ハラスメント」の「加害者」?
今回からの記事にてご紹介するニオイ問題・スメハラ問題ですが、臭いを発している当人には、自覚も悪意もありません。
そんな人を、ハラスメント(嫌がらせ)をしていると決めつけ、「加害者」と呼ぶのは、あまりに一方的で短絡的ではないでしょうか?
パワハラやモラハラ、セクハラなど他のハラスメントの加害者には、たとえ嫌がらせしている自覚がなくとも、その根底には「自分の思い通りにしたい(欲求を満足させたい)」という動機があり、言葉や行動になります。
しかしスメハラには、そういった動機すら無く、何も行動もしていません。この点は他のハラスメントと大きく異なります。
言葉や行動は気をつけることができますが、臭いは「におうこと」自体を本人が知らなければ、気のつけようがありません。
まず本人がにおうことを知ってから、周りの人に与える影響を考えることもできるのです。
つまり、本人が臭いを自覚していない時点ではまだ、ハラスメントとまでは言えないでしょう。
そこで、本サイトでは、身だしなみ・マナーから外れる臭いを発している人について、
「本人に明確に伝えたにもかかわらず、対策への具体的な行動が無く、臭いを放置している」状態のことを「スメハラ」と定義します。
本人が改善の努力をしているのに改善しない、という場合は、スメハラには該当しません。
この場合は、行っている対策には効果が無いということを本人が自覚できていないことが多いので、その事を伝え、別の対策方法を再度提案するようにしましょう。
まとめ
誰もが加害者にも被害者にもなり得る可能性があるニオイ問題。
言いたくても、相手に自覚や悪意がない上、相手を傷つけたり人間関係に影響することを恐れて、我慢しがちです。
伝え方を誤ると逆に名誉毀損やモラハラになる場合もある難しい問題ですが、放置していると様々な悪影響があるため、会社として防止・対策に取り組むことが求められています。